2014年に東京国立博物館と九州国立博物館で開催される「台北 國立故宮博物院-神品至宝-」展。今回初めて台湾・故宮博物院の展示物が日本に貸し出され、日本で公開されます。

貸出品には人気が高いヒスイ彫刻の逸品「翠玉白菜」や「肉形石」が含まれており、内容的にもとてもお薦めです。でも今までなぜ台北・故宮博物院の展示物は日本に貸し出されなかったのでしょう?

その背景には台湾の国際的地位問題がありますが、その辺も踏まえて故宮博物館の由来や台湾・中国両岸の歴史を見てみましょう。

台北と北京にある故宮博物院

「故宮」とは北京の紫禁城のことで、明・清朝時代は皇帝たちが住む宮殿でした。そこにあった歴代王朝に引き継がれてきた美術品を公開したのが故宮博物院の始まりです。

日中戦争時は中国奥地に疎開したりと大切に守られてきた所蔵品ですが、第二次世界大戦後、蒋介石率いる中国国民党と毛沢東率いる中国共産党の内戦で劣勢になった国民党側が特に貴重な物だけを厳選して台湾に持ってきました。それが台北の故宮博物院で展示されています。

残った所蔵品は北京の故宮博物館でも展示されていますが、青磁器や書画などめぼしい美術品のほとんどは台北にあり、正直所蔵物の価値は台北の方が断然上ではないかと思われます。

台北に所蔵品が移された後、中国大陸ではプロレタリア(無産階級)文化大革命という政治運動が行われ、「封建的文化を打破する」という名目で多くの歴史遺産などが破壊されました。それを考えると故宮博物院の宝物を台湾に移したことは、結果的に貴重な文化遺産を破壊から守ることに貢献したと言えるかもしれません。

俺こそ中国(China)だ!

でも台湾に所蔵品を持ってくるとき、中国大陸は内戦の最中、しかも国民党はどんどん支配地域を失い、そんなに余裕があったわけでありません。でもそこまでして元々紫禁城にあった宝物を台湾に持ってきたのは、国民党が自分が中国の正統政権であることを示すためでした。

当時は蒋介石と毛沢東がまだ存命だった時代、両者とも中国全土の覇権を懸けて争っていました。なにせ両方とも「うちが中国」と争っていた時代で、台湾なんてどうでも良かった・・・という感じがありました。

例えばオリンピックに選手団を送る時の国名表記。国民党側は「中国(China)」にこだわり、「台湾(TaiwanもしくはFormosa)」は拒否。でも共産党側からすると「お前は台湾しか支配していないだろ!」と文句大有り。結局ああだこうだ揉めた挙句、「中華台北(Chinese Taipei)」という訳の分からない名称に落ち着く・・・こんな時代だったのです。

でも現実は厳しい・・・中華民国と断交

でも実際の中国大陸に実効支配地を持っていない以上、国民党政権が中国大陸を支配している政権と見做すのは無理がありすぎます。結局国際情勢の変化で、アメリカが1979年に共産党側(中華人民共和国)と外交関係を結び、国民党政権(中華民国)とは断交、日本も含めたほかの西側諸国も続くことになります。

断交とはどういうことなのでしょう?日本政府から見ると、中華民国は存在せず、中国のことについては中華人民共和国が中華民国を引き継いだとみなされます。

なお、台湾については「中華人民共和国の主張はとりあえず伺いました」ということで、台湾の部分については日本が既に放棄した地域であること以外は未定というのが日本政府の立場なのです。この辺も色々興味深い話があるのですが、既に話がどんどん脱線しているので、また別の機会に書きたいと思います。

ようやく故宮博物院の話になります

さきほどの「中華民国が存在しない状態」、これ実は大問題なんです。台湾・故宮博物院の正式名称は「國立故宮博物院」、「中華民国」設立の博物館、つまり宝物の所有者は誰かと言えば、「中華民国」政府なのです。

でも日本では「中華民国」というのは無いことになっている。この状態で日本に故宮博物院の宝物を日本に持ってくる、もし北京の中華人民共和国政府が「あれは元々紫禁城にあったものです。だから北京に返すのが筋です」と言い出したらどうなるのか?

日本政府が「中華民国」政府という存在を認めない以上、所有権は曖昧なので、下手をすると日本で差し押さえられてしまう可能性があるわけです。裁判で所有権を争うと数年はかかるうえ、どういう判決が出るか予想もつかないし、その間は日本で宝物が眠ってしまう可能性もあります。台湾側からすると、これでは怖くて貸せません。

実際「光華寮訴訟」という実例もありました。光華寮という京都の留学生寮の所有権を巡り、1967年中華民国が認められている時代に訴訟が始まったものの、1972年に中華民国の承認が取り消され、それから政治的な判断もあったのか、審理が止まり、最近ようやく最高裁で一審まで差し戻し(要はもう一回やり直し)の判決が出て、結局40年以上経過しても未だに結論が出ていないのです。

海外の美術品等の我が国における公開の促進に関する法律

ちなみに日本が承認している国であれば、その政府所有の美術品などに差し押さえをすることは法律上禁止されています。でも中華民国は国と見做されないので、同じようには扱えません。そこで「海外の美術品等の我が国における公開の促進に関する法律」が制定されました。

もう少し噛み砕いて言うと「差し押さえの問題で、海外からちょこっと借りて展示することもできないのはもったいないので、展示期間の間は差し押さえとかの話は凍結できるように法律で保証しましょう」ということです。台湾だけでなく、海外で民間の美術館が持っている美術品なども対象になっていますが、台湾の故宮博物院の事例も念頭にあったのは間違いないところだと思います。

ちょっとでもいいから前進してほしい

こうやって台湾との交流を盛んにするべく、議員立法でこういう法律ができたのは良いことだと思います。また今回の展示で少しでも多くの人に台湾に関心を持っていただければと思います。

(2013年10月17日 更新)

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