台湾の高速道路のETC導入の経緯、合理的な距離別料金に移行するための地道な努力

台湾の國道(高速道路)は2013年12月30日より計程收費(距離別料金)に移行しました。日本ではいまいちピンと来ないかもしれませんが、台湾では長年のやり方を大幅に変える出来事でした。料金を柔軟に変更できるインフラができ、様々な施策を行うことができるようになっています。

インターチェンジに料金所がなかった

そもそも台湾の國道(高速道路)ではインターチェンジ(出入り口)に料金所がなく、どこで高速道路に入ったか、どこで抜けたかが分かりませんでした。ETC設置まではどうしていたかというと、高速道路の本線上に一定間隔で料金所を設置し、各料金所を通過する毎に40台湾元を徴収していたのです。

基本的に高速道路の本線を走り続けていれば、走行距離が長いほど多くの料金所を通過し、多くの料金を支払うはずなのですが、インターチェンジの間に料金所がない区間も結構あるので、そういう区間だけ走れば全く料金を払わなくても済みます。逆に短い区間であっても料金所がある区間を通れば料金を徴収されます。これでは不公平です。

BOT方式・民間によるETC設置から始まった

距離別料金への準備はかなり周到に進められました。まずはBOT(Build Operate Transfer、民間が施設を建設・維持管理・運営し、契約期間終了後に公共へ所有権を移転)方式により、ETCの設置を始めました。

2006年より既存の料金所にETC専用レーンを設け、ETCを設置した車は割引料金が適用されました。しかしこの時は1,199台湾元もするETC車載器の購入が必要で、何度か値下げを行ったものの、普及はかなりゆっくりしたものでした。

その後2011年より「eTag」と呼ばれるシールを車のフロントガラスやヘッドライトに貼り付けることで、ETC車載器を置き換えることができるようになりました。このeTagはICやアンテナが内蔵されており、料金所などからの電波をエネルギー源として動作する「パッシブタブ」のため、電池を内蔵する必要がありません。またこの「パッシブタブ」は生産コストが安いので、ETC導入を進めるために、無料で提供することができました。こうやって普及率を上げていったのです。

センサーゲートの設置と非ETC車への対応

その後、どのインターチェンジから高速道路に出入りしても経路がわかるように319箇所にセンサーゲートを設置しました。ちなみにETC非対応の車両の場合はナンバープレートを読み取り、それを基に請求書が送られる仕組みになりました。

請求の手間もかかると思われますので、ETC非対応者はETC割引(10%)を適用されないことでバランスを取っています。

料金試案の公表と世論調査

公平性を考えれば、高速道路料金は完全に距離に準じた料金にするのが一番理想です。また現在料金所を通らない区間を使っている人には、距離別料金は値上げとなり、公共交通機関の利用を促す効果もあります。

しかし現在多くの人が郊外から市街への通勤でこういった無料区間を通っている以上、大幅な値上げになるような料金制度は、いくら合理的ではあっても政治的に実現困難であると予想されます。

そこで台湾政府は「毎日○○kmまでの利用は無料」という「免費里程(無料マイル)」という概念を打ち出し、以下のような試算結果を公開しました。

  • 無料マイル・長距離割引無し、0.9台湾元/km、
  • 毎日15kmまで無料、以後1.2台湾元/km、200km以上0.9台湾元/km
  • 毎日20kmまで無料、以後1.3台湾元/km、200km以上1.0台湾元/km

要は無料区間が増えるほど、その分有料区間が値上げされる訳です。色々無料距離を変えたりしながら試算を繰り返し、世論の反応を見極めた上で、結局上記の中で「毎日20kmまで無料」案が採用されることとなりました。

料金所の係員は全員解雇

ETCが完全に導入された後は、料金所の係員は不要となります。この処遇が一番問題となり、長引くことにもなりました。主な理由としては以下が挙げられます。

  • 料金所の係員は1年毎の定期契約だったものの、実際は多くの係員が長年契約更新をして勤務していた。
  • 民間の会社で通常1年計画を何回も継続すると、通常は期限が無い不定期契約とみなされることが多いが、公共機関はそういった法規則の適用外だった。
  • 2008年より行政機関であっても現業部門であれば、労働基準法が適用されることになったが、適用前の期間については問題が残ったままだった。
  • 料金所は台湾全土色々な場所に分散しているが、近い場所で別の仕事を探すのは難しい状況だった。
  • 長期間料金所で働いている人は全く違う仕事をするのが難しかった。

2006年1月1日より一部でETCによる料金徴収が始まり、それと同時に料金所の係員1,100人の内、125人がリストラされ、2006年1月1日に離職することとなりました。

その後2013年12月30日0時にETCの運用が始まり、料金所が撤廃されると942人の内、486人が保証金を受け取って離職、456人がETC運営を受託している会社やそのグループで転属配置を希望していますが、経験などの問題で全員可能というわけでもなく、難しいのが現状です。

政治的な妥協はあったものの、まずはインフラが整った

毎日20kmまで無料となったことで、公平さに関してはやはり問題が残りました。また通勤など近距離のマイカー利用を抑制し、公共交通機関の利用に誘導する効果が減少したことも否定できません。この点については消費者団体などからも強い不満が表明されていました。

でも反対があちこちから続出して政治的に距離別料金に移行できない状況になるより、まずはちゃんと走った距離に応じて料金が計算・徴収できるインフラを作るのが大事なのではないかと思います。

まず料金所での一時ストップがなくなり渋滞緩和に役立つこと、そして料金所の係員を完全にゼロにすることで人件費などのコスト削減ができることなどのメリットはすぐに受けられます。その上で、時間をかけて理解が広まれば、例えば無料マイルを減らすことに対する反発も減る可能性は高いと思います。

こう考えると台湾政府の官僚は粘り強く調整に取り組み、安易な迎合に走らず、いい仕事をしたと言えるのではないでしょうか。

料金を柔軟に変更し、交通量の分散も可能に

何よりも時間帯や区間などによって料金を柔軟に変えることが技術的に可能になったことで、料金を柔軟に変更し、交通量を分散させる施策が実行できるようになりました。

日本でも高速道路料金については色々な議論になりますが、台湾も同じで、いくら経済的に合理的であっても、料金上乗せはかなりハードルが高いです。しかし値下げによる分散は割と受け入れやすいので積極的に活用しています。

例えば2019年の旧正月は2019年2月2日(土)~10日(日)の9日間で、毎年この時期は大混雑するので、通行料に関してはこんな措置が実施され、交通量の分散が図られました。

  • 毎日の無料マイルを取消
  • 比較的すいている路線を2割引き
  • 連休期間中は深夜早朝0~5時を無料

また2019年4月4日(木)~4月7日(日)の「清明節」の連休では、一週間前の週末である3月30日(土)と31日(日)を併せて、こんな通行料制度が実施されています。

  • 連休期間中は無料マイルを取消
  • 4月4日(木)~4月6日(土)は深夜早朝0~5時を無料
  • 4月7日(日)は深夜0~朝10時を無料
  • 一週間前の週末である3月30日(土)と31日(日)の帰省を促すため、両日は3割引き

参考文献 (クリックすると一覧を表示)
  • 画像はETC完全移行前の泰山收費站(泰山料金所)、2005年06月05日撮影(https://zh.wikipedia.org/zh-tw/File:Taishan_Toll_Station_20050605.jpg、2019年09月14日閲覧)
  • 免費里程20公里無解付費不公問題,又使國道基金短收,應取消! – 中華民國消費者文教基金會 (http://www.consumers.org.tw/unit412.aspx?id=1741、2013年12月21日閲覧)
  • 遠通電收 – 1230計程收費真簡單 (http://fetc.hiiir.com/、2013年12月21日閲覧)
  • 高速公路電子收費系統 (台灣) – 維基百科,自由的百科全書 (https://zh.wikipedia.org/w/index.php?title=%E9%AB%98%E9%80%9F%E5%85%AC%E8%B7%AF%E9%9B%BB%E5%AD%90%E6%94%B6%E8%B2%BB%E7%B3%BB%E7%B5%B1_(%E8%87%BA%E7%81%A3)&variant=zh-tw&oldid=55641954、2019年09月14日閲覧)
  • 中華民國國道收費員資遣抗爭運動 – 維基百科,自由的百科全書 (https://zh.wikipedia.org/w/index.php?title=%E4%B8%AD%E8%8F%AF%E6%B0%91%E5%9C%8B%E5%9C%8B%E9%81%93%E6%94%B6%E8%B2%BB%E5%93%A1%E8%B3%87%E9%81%A3%E6%8A%97%E7%88%AD%E9%81%8B%E5%8B%95&variant=zh-tw&oldid=55924673、2019年09月14日閲覧)
  • 108年春節連假國道疏運措施| 交通新聞| 交通安全入口網 (https://168.motc.gov.tw/theme/news/post/1906121102254、2019年09月14日閲覧)
  • 108年清明節連假國道交通疏導措施| 交通新聞| 交通安全入口網 (https://168.motc.gov.tw/theme/news/post/1906121102290、2019年09月14日閲覧)
  • BTO / BOT / BOO / RO|新・公民連携最前線|PPPまちづくり (https://project.nikkeibp.co.jp/atclppp/tk/20150217/435853/、2019年09月14日閲覧)
  • RFID – Wikipedia (https://ja.wikipedia.org/w/index.php?title=RFID&oldid=74061468、2019年09月14日閲覧)

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