台湾産アップルマンゴーは「超」厳格プロセスで日本に輸入!台湾の国家級プロジェクト

アップルマンゴー

台湾政府は「国家プロジェクト」と言っても良いほど力を入れて、台湾農産品の海外市場開拓を進めており、台湾産のアップルマンゴーも厳密かつ複雑なプロセスを経て、日本に輸出されています。

3時間以上の加熱

台湾から日本に輸入されるアップルマンゴーはミバエ類(ミカンコミバエやウリミバエなど)の害虫を殺虫するために「蒸熱処理」が行われています。薬品を一切使用せず、熱によって幼虫や卵を殺してしまう方法です。

実際には厳密な温度管理がなされた処理室に温度・湿度がコントロールされた空気を送り込み、 果実の中心温度が46.5℃になるまで加熱します。この際、温度上昇が早すぎても遅すぎてもよろしくなく、約3時間かけて加熱していきます。

果実の中心温度が46.5℃に達した後、30分その温度を維持します。その後上から大量の冷水をシャワーのようにかけ、30℃まで急速に冷却し、常温に戻します。

常温に戻ったら処理室から出し、選別・包装・箱詰めを行います。果実の中心温度を何度にするかは果物の品種により異なり、果実を傷めない程度の温度になっていますが、実際には熱で傷む果実が出ますし、温度測定で使うサンプルの果実も傷がつくため、 一定の割合で出荷できなくなる果実が出てきます。

毎年出荷時期には日本の検疫官が台湾に駐在

蒸熱処理は指定された施設で行われますが、その施設は毎年出荷時期前に日本の検疫官が台湾の検疫関係者と一緒にチェックを行います。チェック項目には以下の項目などが含まれます。

  • 複数の防虫エアカーテン・防虫カーテン・防虫ネットがちゃんと設置されているかなどの施設や箱詰め場の防虫対策の検査
  • 照明や処理設備、冷蔵設備、電源、非常用発電機などの検査
  • 処理場の外周への殺虫灯
  • 処理場や箱詰め場の殺虫・消毒処理

温度計の校正や試運転で厳密な検査

温度計に対しては出荷時期前に校正、つまり正確な温度が測れているかの確認を行います。1つの処理室で使う温度計は果実温度測定用に15個、処理室温度測定用2個、予備3個のワンセット20個なのですが、これを全て校正後、問題が無ければ確認のため校正記録用紙に日本と台湾の検疫官双方が署名します。

まず果実を入れない空トレイの状態で試運転を行います。この際、一番上段のトレー全てに温度計を置き、試運転中の温度情報が正常かどうか確認します。問題が無ければ確認のため温度記録用紙に日本と台湾の検疫官双方が署名します。

次に果実を詰めたトレーを使って試運転をします。果実を詰めたトレーは5個×3列で15個、これを8段積み上げて処理室に入れるのですが、先述の空トレイの試験時に温度の上昇が遅かった部分の上段(1段)、中段(4・5段)、下段(8段)の5つのトレイに、各トレイは四隅と中央の5か所に温度計を置きます。̪こちらも試運転終了後に問題が無ければ確認のため温度記録用紙に日本と台湾の検疫官双方が署名します。

ここまで厳密な試験を来ない、問題が無いことを日本・台湾双方で確認した後にようやく正式な出荷作業を始めることができるのです。

選りすぐりのマンゴーを選別

外観が正常で、病害虫の痕跡が無く、成熟度を揃えたマンゴーを選別し、プラスチックトレーに果梗(かこう、枝が付いていた部分)を下にして並べます。処理中に果実がガタガタ動かないよう果実の間に隙間を作らず、また果実を上下に重ねないよう、きっちりと並べます。

果実を詰めたトレーは5個×3列で15個、これを8段積み上げて処理室に入れます。もし果実の数量が足りない場合でも、 空のトレーを積み、処理室内の温度上昇の速度にばらつきが出ないようにしています。

トレーの外側には、マンゴーの個数・等級・生産者・産地・輸出業者・生産履歴などが記載されたラベルが付けられています。またトレーの開口部分には防虫ネットが掛けられ、次の処理を待つまでの間に病害虫が付かないように配慮されています。

厳密な温度管理

まず果実の中心温度が46.5℃に達していることを確実に計測するため、温度計は果実の中心部まで差し込めるよう先端が針状になった「温度計プローブ」を使います。 日本・台湾双方の検疫官の監督の下、各トレイごとに1個大きめのマンゴーを選び、この温度計プローブを果実の中心部まで挿し込みます。 この際果実ではなく、種に刺さないように注意します。また処理中に温度計プローブが抜けないように固定します。

処理室にマンゴーが入ったプラスチックトレイを入れ、処理室をロックした後、加熱開始時刻を記録し、日本・台湾双方の検疫官が署名してから、処理室の運転を開始します。その後5分毎に温度を記録します。また果実の中心温度が46.5℃に達した後にも時刻を記録し、日台双方の検疫官が署名します。

冷水で冷却し常温に戻した後、日台双方の検疫官の監督の下、処理時に処理室をロックしていたかどうか確認します。また処理室を開けて、温度計プローブを取り出し、さらに必要に応じて温度計プローブを挿したマンゴーを解体して温度計プローブの先端が果実の中心部に刺さっていたか確認を行います。

箱詰め時と同時に検疫

冷水で冷却し常温に戻したマンゴーは箱詰め作業エリアで選別し、重量を計測し、ネットを掛け、箱詰めを行い、約15℃で冷蔵します。この時に検疫を行います。

まず箱が密封されているか、通気孔に貼られた防虫ネットに破れや脱落がないか、 防虫ネットの網の目が直径1.6mm以下かなどが検査され、 問題なければ輸出検疫を申告します。

輸出検疫では日台双方の検疫官が輸出する箱数の2%をサンプル検査します。箱の中の果実を全て検査し、必要に応じて果実を切り取って検査を行います。もし検査で幼虫が確認された場合は3時間以上、卵が出た場合は48時間以上置いて観察し、その生死を確認します。

検疫合格後、検疫証明書と検疫シールが発行されます。検疫証明書は日台双方の検疫官が署名します。検疫シールは封印もかねて、箱に掛けた紐やバンドの上に貼ります。これでようやく出荷可能となるわけです。

実績をベースに常駐する日本側の検疫官を減員

上記のプロセスが上手く行き、大きな問題が起こらなかったため、日本から台湾側の検疫官に委任をするなどの方法で、出荷時期に台湾に常駐する日本側の検疫官を各施設1名、合計4名だったのを各施設共同で1名に減らすことに日台で合意し、2011年から実施されています。

これにより日本側に提出する書面は増えたものの、台湾に常駐する日本側の検疫官の滞在費用も削減され、また日本側の検疫官の勤務時間を調整しなくても、例えば休日返上の検査なども行えるようになり、検疫のコストの時間削減が実現しています。

国を挙げて海外市場を開拓

台湾の農業もWTO加入後色々な問題があり、決して良いことばかりではありませんが、上記のような形で台湾政府が「国家プロジェクト」と言っても良いほど力を入れて、台湾農産品の海外市場開拓を進めており、こうやって一定の成功しているのには驚かされます。

参考文献 (クリックすると一覧を表示)
  • 日本首度減派檢疫官來臺 – 行政院農委會動植物防疫檢疫局 (http://www.apha.gov.tw/files/web_articles_files/baphiq/9033/3595.pdf、2019年08月24日閲覧)
  • 日本芒果市場概況 – 經貿透視雙周刊資訊網 (https://www.trademag.org.tw/page/newsid1/?id=448533&iz=6、2019年08月24日閲覧)
  • 輸日鮮果的蒸熱檢疫殺蟲處理作業 – 行政院農業委員會臺東區農業改良場 (https://www.ttdares.gov.tw/upload/ttdares/files/web_structure/1395/2007-62-04.pdf、2019年08月24日閲覧)
  • 芒果檢疫蒸熱處理介紹-高雄區農業專訊92 (https://oldwww.kdais.gov.tw/exten/ext-92/92-10.pdf、2019年08月24日閲覧)
  • ミカンコミバエ – Wikipedia (https://ja.wikipedia.org/w/index.php?title=%E3%83%9F%E3%82%AB%E3%83%B3%E3%82%B3%E3%83%9F%E3%83%90%E3%82%A8&oldid=72898471、2019年08月24日閲覧)
  • ウリミバエ – Wikipedia (https://ja.wikipedia.org/w/index.php?title=%E3%82%A6%E3%83%AA%E3%83%9F%E3%83%90%E3%82%A8&oldid=70872531、2019年08月24日閲覧)
  • 株式会社ダイヤモンドスター:蒸熱処理について (http://www.diamondstar.co.jp/food/vapor_heat.html、2019年08月24日閲覧)

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