中秋節(中秋の名月)になぜバーベキュー?色々な意図・偶然の結果定着した台湾文化

旧暦8月15日(新暦9月~10月初旬)は台湾など中華圏の伝統行事「中秋節」です。日本だと「中秋の名月」に相当します。家族がそろって月餅や柑橘類のブンタンを食べたりしますが、台湾だけの習慣としてなぜかバーベキューをする習慣があります。その理由を調べてみました。

1980年代の台湾2大醤油メーカーの広告合戦

そもそもの由来は1980年代の台湾2大醤油メーカーの広告合戦まで遡ります。

「萬家香」のテレビ広告 (Youtubeより)
「萬家香」のテレビ広告 (Youtubeより)

その内の一つ「萬家香醬園」、通称「萬家香」のテレビ広告で「一家烤肉萬家香 (一家で焼肉、みんなでウマウマ)」というコピーは今でも台湾の人のほとんどが知っているほど定着しました。

「金蘭醬油」のテレビ広告 (Youtubeより)

一方の「金蘭醬油」 (現在は「金蘭食品」)は草原にバーベキューセットを並べ、色々なものに自社の焼き肉のたれを塗っていく様子を軽快なメロディーを流しながら見せるという豪快なテレビ広告を頻繁に流し、こちらもそのメロディーは台湾の多くの人の記録に残っています。

大型スーパーがバーベキューセットを販売

このころ台湾には「量販店」と呼ばれる大型スーパーが開設されるようになりました。例えばフランスの家樂福(カルフール)は1989年に台湾南部の高雄で、また今は撤退していますが、オランダの萬客隆(Makro、マクロ)が1989年に桃園の大湳で、それぞれ台湾1号店を開店していました。

これらの大型スーパーが醤油メーカーのキャンペーンに便乗して、バーベキュー関連用品のセットのセールを行ったのです。肉や野菜などの食材やコンロなどの道具、練炭などに至るまで、買えばそのままバーベキューができるようになっており、これが台湾人の心をつかみました。

元々アウトドアでバーベキューだった

台湾最大の掲示板PTTでのやり取りによると1978年の新聞「民生報」の月見に関する報道の中で、アウトドアで焼肉をしながら月を鑑賞するという話が出ているそうです。

面白いのは1982年より前、つまり先述の醤油メーカーや大型スーパーのキャンペーン前は自然の中でアウトドアで焼肉を食べるというのが中心だったということです。おそらくこれがキャンペーン後に家や会社などでも焼肉を行うようになったようです。

変化は新竹から始まった?

今の形になったのは1982年に新竹で始まったという別の見方もあります。新聞「民生報」では当時のこんな報道がされていたそうです。なんとバーベキューコンロが海外向けに売れず、台湾の中秋節向けに転換されたのが理由という見方です。

  • キャンプ場などだけでなく、家の前やベランダでもくもく煙を上げ、バーベキューの香りがする。
  • 以前は月餅やブンタン(柑橘類)を食べて、話しながら、月を眺めていたが、今年はバーベキューが流行していた。
  • バーベキューの煙で朧月になるのも趣があって結構と思う人もいれば、月の輝きが失われて雰囲気が損なわれると考える人もいた。
  • 今年中秋節にバーベキューが流行した主な理由は、バーベキューコンロの輸出が不調で、メーカーが大量の在庫を国内販売に切り替えたのが原因。特に新竹はバーベキューコンロ生産のメッカである。
  • ある人曰く、明るい月も拝めないのは、不景気の副作用の一つだ。

この輸出向けバーベキューコンロが売れずに台湾の中秋節向けに転換されたという話は1989年の経済紙「經濟日報」にもこう出ているそうです。

  • バーベキュー用品工場の工場長だった劉氏によると、
  • 同社の高級品は本来輸出がメイン
  • (台湾)国内向けには安価な焼き網を金物屋を通じて販売している。
  • 過去の経験からすると、1回の中秋節で、簡易なバーベキュー道具セットは12万セットは売れているだろう。

こうやって見ると、中秋節のバーベキューが広まった理由としては、先ほどのテレビ広告などのキャンペーンに加え、バーベキュー用品の簡易か廉価化が進んだことも大きいことになります。

台北でも自然発生?

さらに2009年頃の新聞への読者投稿によると、1990年の時に家族で5月にアウトドアでバーベキューをする予定が雨で中止になり、その後中秋節の前に子供が突然バーベキューをしようと言い始めたため、一家で台北市市立圖書館總館(台北市立図書館本館)裏のバスケットボールコートでバーベキューをしたそうです。

次の年も同じバスケットボールコートでバーベキューをしたら、余りにもおいしそうな香りに近所の人も出て来てみるまでになり、その後近所で集まってバーベキュー大会をしようという話になり、それが結果的に「里(日本で言えば町)」全体に広がり、結果的に図書館と道を挟んだお隣の「大安森林公園」という大きな公園の周辺ではバーベキューをしに集まる人で一杯になるようになったそうです。

台湾人の感覚にピッタリ、自然に定着

あと外で家族がそろって月見をするときに、せっかくだからバーベキュー「も」するというのが台湾人の感覚的に「あり!」だったというのが重要だったと思います。

家族や友達などプライベートだけでなく、台湾の会社では、誕生会や忘年会など節目には福利厚生として会社全額負担で食事会やイベントをしますし、中秋節もキャンプ場などに行ってバーベキューを行う会社も多くあります。

店舗などで全員で休むわけにいかない場合は、店の前にコンロを置いてバーベキューを行う光景も良く見かけます。誰も「従業員が食っているんじゃないよ」なんてクレームを入れる人もいません。中秋節は特別なのです。

そういえば、タクシーの運転手さんは先述の「萬家香」のテレビ広告の話をした後、こんなことを言っていました。

「一家烤肉、萬家香 (一家で焼肉、みんなでウマウマ) 」は、「三家烤肉、一家香(3人が肉を焼いて、1人がウマウマ:麻雀で3人が負けて1人勝ちする意味)」より良いだろう?

台北で乗ったタクシーの運転手の発言

ちなみにどっちが先に出てどちらがもじったかは古い話なので記憶にないそうですが、確かに日本と比べると、台湾では「皆で」、「一緒に」、「シェアする」、「共有する」という言い方・行動が好きな感じがします。

こうやって見ると色々な意図・偶然が重なった結果、台湾人の感覚にもあっていたので自然に今のような「中秋節にはバーベキューが定着」に至ったというのが実情のようです。

参考文献 (クリックすると一覧を表示)
  • 中秋節 – Wikipedia (https://zh.wikipedia.org/w/index.php?title=%E4%B8%AD%E7%A7%8B%E8%8A%82&variant=zh-tw&oldid=56080851、2019年09月13日閲覧)
  • 「一家烤肉萬家香」廣告紅了30年…台灣人「中秋節瘋烤肉」,原來新竹人是幕後推手 (https://www.businesstoday.com.tw/article/category/80392/post/201909120009/%E3%80%8C%E4%B8%80%E5%AE%B6%E7%83%A4%E8%82%89%E8%90%AC%E5%AE%B6%E9%A6%99%E3%80%8D%E5%BB%A3%E5%91%8A%E7%B4%85%E4%BA%8630%E5%B9%B4…%E5%8F%B0%E7%81%A3%E4%BA%BA%E3%80%8C%E4%B8%AD%E7%A7%8B%E7%AF%80%E7%98%8B%E7%83%A4%E8%82%89%E3%80%8D%EF%BC%8C%E5%8E%9F%E4%BE%86%E6%96%B0%E7%AB%B9%E4%BA%BA%E6%98%AF%E5%B9%95%E5%BE%8C%E6%8E%A8%E6%89%8B、2019年09月13日閲覧)
  • 一家烤肉萬家香、有媽媽的味道(萬家香醬油)- Youtube (https://www.youtube.com/watch?v=5g0LUbKK3xU、2019年09月13日閲覧)
  • 經典廣告 金蘭烤肉醬 – Youtube (https://www.youtube.com/watch?v=nSknANwWrIs、2019年09月13日閲覧)
  • 萬家香醬園 – 維基百科,自由的百科全書 (https://zh.wikipedia.org/w/index.php?title=%E8%90%AC%E5%AE%B6%E9%A6%99%E9%86%AC%E5%9C%92&variant=zh-tw&oldid=54113051、2019年09月13日閲覧)

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