日本企業・日本人が台湾で起業するために会社を設立・登記する場合、通常の選択肢は日本の合同会社に相当する「有限公司」、日本の株式会社に相当する「股份有限公司」、もしくは支店に相当する「分公司」になります。以下にそれぞれの特徴をまとめて見ました。
股份有限公司・有限公司・分公司比較表
股份有限公司 | 有限公司 | 分公司 | |
読み方 | グーフェン・ヨーシェン・コンスー | ヨーシェン・コンスー | フェン・コンスー |
例 | ○○股份有限公司 | ○○有限公司 | 日商○○(股份)有限公司台灣分公司 |
概略 | 株式会社相当。株主構成、役員構成、役員会の開催等に色々条件有り | 合同会社に近い。比較的フレキシブルに設立可能 | 日本企業による支店開設。台湾での利益を本国に送金する際に制限が少ない |
株主 | 最少2人(法人の場合は1社可) | 最少1人 | - |
議決権 | 1株1票 所有株数による議決権配分 |
株主1名1票 出資の多寡は関係なし。ただし定款変更で出資額に応じた議決権配分にすることも可能 |
- |
役員・幹部 | 取締役:最少3人 監査役:最少1人 非株主からも選任可能 |
取締役:最少1人
必ず株主の中から選任 |
支店長:1人
支店長は台湾在住(予定)者
訴訟及非訴訟代理人:1人
日本本社の台湾における責任者、日本本社の代表取締役が就任するか、支店長が兼任する場合が多い |
役員任期 | 最低3年に1回は改選の手続が必要(登記変更費用が発生) | 制限なし(改選の手続なども不要) | |
株式 | 発行可能 | 発行不可 | - |
授権資本 | 可能 | 不可能 | - |
組織形態変更 | 不可能 | 股份有限公司へ変更可能 | 不可能 |
株式・出資の異動 | 売買・譲渡:設立1年後は自由 上場:可能 |
売買・譲渡:株主全員の同意が必要 上場:不可能 |
- |
株式公開 | 可能 | 不可能 | - |
税金 | 営業税:5%、法人税:20%
法人税は2020年度に20%に変更される予定で、現在は利益額などに応じた経過措置が取られています。
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輸出入 | 可能 | ||
出資責任 | 有限責任(出資額範囲内) | 日本本社が連帯責任 | |
内部留保への課税 | 未処分利益への課税:5%
日本と違い、法律で定められた以上の金額を内部留保に回す場合、課税されます。
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無 | |
日本の株主へ配当する場合の源泉徴収 | 配当送金時の源泉徴収:20%→10%
配当を例えば日本本社など日本の株主に送金する場合は源泉徴収を行われます。日台租税協定に基づき申請を行い、認可されると税率が20%→10%に下がります。 |
無 |
小さく始めるのであれば、有限公司
「小さくはじめる」のであれば、 「有限公司」で良いのではないかと考えます。
股份有限公司の場合、取締役会の構成員が最低4人必要ですので、いわゆる「1人会社」は不可能です。また取締役会は通常3年に一回の改選の手続が必要で、これは登記変更事項なので、政府機関への届出が必要となり、手間と若干の費用がかかります。
信用度や見た目を考慮して股份有限公司にした方がいいのではないかという考え方もあるかもしれませんが、具体的なメリットが見えないのに、そこまで面倒なことをして股份有限公司にする必要はないと思います。具体的なメリットが見えた段階で股份有限公司に組織変更することもできます。
本社への利益送金を考慮すると分公司(支店)
日本企業の場合は台湾分公司(支店)を設置する方法もあります。
支店といっても事実上の資本金として「營運資金(運営資金)」を日本より送金する必要があるので、最初に必要な資金は有限公司や股份有限公司などとあまり変わりません。台湾の法人税や営業税(日本の消費税相当)などに関しても変わることはありません。しかし台湾で利益が出た際の税金に関しては大きく変わります。
有限公司や股份有限公司の場合は出資者(株主)への配当として処理されるので、例えば日本本社など、日本の株主の場合20%(手続をして認可された場合は10%)源泉徴収が行われてから株主に送金されます。
もし配当を行わず、内部留保した場合は法人税とは別に未配当利益に対して5%課税されます。内部留保・未配当利益に対して課税されない日本とは異なるので注意が必要です。
台湾分公司の場合はあくまでも日本の会社の一部分として扱われます。台湾分公司の決算は日本本社と合算されます。 台湾で出た利益に対しては台湾の法人税がかかりますが、残りは日本本社に送金しても源泉徴収されることはありませんし、内部留保・未配当利益に対して課税されることもありません。
日本本社では台湾分公司と合算した決算が行われ、日本で税金を払うのですが、台湾での税負担は外国税額控除制度などで日本本社の税額計算時に控除可能なので二重負担にはなりません。
法律上、分公司(支店)は日本本社の延長
台湾分公司(支店)は台湾の法律に基づいて作られた会社(台湾法人)ではないので、台湾企業に対して提供される各種優遇措置が受けられない場合があります。また一部業種、例えば旅行業などは子会社でないとできません。また台湾での土地の購入なども支店名義ではなく、本社名義になります。
また台湾分公司で負った負債などの責任は本社も連帯で負うことになります。 有限公司や股份有限公司など子会社の場合は原則株主として出資した額まで責任を負えば良いですが、台湾分公司の場合は全て日本本社が連帯責任を負います。よってリスク管理には留意が必要です。
ただ普通に商売する上では台湾分公司によるデメリットはほとんどないと思います。実際海外から台湾への進出に良く活用されている組織形態です。もし不都合が出てきたら、他の形態への直接変更こそできないものの、台湾分公司を廃止し、有限公司や股份有限公司を作っても良いわけです。
株式の異動を考慮するなら股份有限公司
股份有限公司は株式の流動を想定しており、種類株式の発行も可能ですし、授権資本として株式の予定発行額を登記したり、株式の譲渡も設立1年後は自由です。またストックオプションも股份有限公司でないとできません。ただそういったことを考慮していない場合はあまり関係ないかもしれません。
ちなみに表にある「種類株式」とは、例えば「議決権がない代わりに配当が多くなる」など、権利・条件が普通の株式と異なるものを言います。また授権資本は、機動的な資金調達のため、定款に事前に規定した発行可能株式数の限度内であれば、株主総会の決議を経ることなく、取締役会の決議でもって新株の発行が可能であるとする制度です。多数株主がいる規模が大きな会社を想定した制度です。
スタートアップ・ ベンチャーには閉鎖性股份有限公司
台湾政府は2015年にベンチャーやスタートアップなどの起業に有利な組織形態として、「閉鎖性股份有限公司」というものを追加しました。出資形態や株式の書類などにおいて普通の「股份有限公司」よりかなり柔軟な制度設計が認められています。
以下、参考までに(普通の)股份有限公司と「閉鎖性」股份有限公司を比較しています。
股份有限公司 | 「閉鎖性」股份有限公司 | |
株主 | 最少2人(法人の場合は1社可) | 左記+ただし株主50人以下 |
株主公開 | 可能 | 不可能 |
出資形態 | 現金、現金以外の財産(土地、建物、設備)、技術 | 左記+信用、労務(ただし信用や労務は総株式発行数の一部) |
株式額面 | 額面有り | 左記+額面無しも可能 |
種類株式と議決権 | 優先株式(配当などが優先・優遇される代わりに議決権がない株式)のみ可能 | 左記+特定事項に対する拒否権が付与された株式(黄金株)、複数の議決権が付与された株式なども可能 |
株主への配当 | 毎年1回 | 左記+半年に1回も可能 |
株式の社債への転換 | 株式を公開している場合に限り可能 | 可能 |
株式の譲渡 | 売買・譲渡:設立1年後は自由 | 会社定款に記載することで株式の譲渡制限可能 |
組織形態変更 | 株式非公開の場合は閉鎖性股份有限公司に変更可能 | 股份有限公司に変更可能 |
基本的には「股份有限公司」ですので、個人や中小企業が「小さく始める」にはやはり「有限公司」や「分公司」が良いことが多いと思います。
しかしスタートアップ・ベンチャーなどである程度の規模で始める場合、信用や労務など現金以外の物を出資でき、また拒否権を付与した「黄金株」など特殊な株式の発行も柔軟にできるので、現金で多額の出資ができないが、独自の技術やアイデアを持つ創業者サイドが経営権を維持するために役立つと考えられます。